大阪地方裁判所 昭和40年(ワ)1579号 判決 1968年3月13日
主文
被告は原告らに対し別紙目録記載の建物を明渡せ。
原告らのその余の請求を棄却する。
訴訟費用は被告の負担とする。
この判決の第一項は原告らにおいて共同して金二五万円の担保を供するときは仮に執行することができる。
事実
原告ら訴訟代理人は、被告は原告らに対し別紙目録記載の建物(以下本件建物という)を明渡し昭和四〇年四月四日から右明渡ずみまで一ケ月金五万円の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。との判決並びに仮執行宣言を求め、請求原因として、次のとおり述べた。
一、更生会社三善工業株式会社(以下更生会社という)は、本件建物を所有している。
二、更生会社は、昭和三八年九月姉妹会社である訴外日善実業株式会社の代表取締役であつた被告に対し社宅として本件建物につき使用貸借契約を締結してこれを引渡し、被告は、この時以来本件建物を占有使用している。
三、被告は、右訴外会社の仕事を放擲し、昭和三九年一二月下旬以降出社せず、私利をはかり、公私混同し、別会社を創立すると称し従業員を引きぬき、代表取締役という地位を利用して右訴外会社の大阪名古屋の営業所を不法占拠する等背任行為の極に達したので、取締役の任期満了の際株主総会において再任されず、昭和四〇年二月二六日右訴外会社の代表取締役並びに取締役の地位を喪失した。
四、更生会社は、昭和四〇年三月三一日付内容証明郵便をもつて被告に対し前記使用貸借契約を解除する旨の意思表示をなし、右内容証明郵便は、同年四月三日被告に到達した。
五、更生会社は、昭和四一年三月八日金沢地方裁判所において更生手続開始決定を受け、原告両名がその管財人に選任された。
六、よつて、原告らは、被告に対し、本件建物の明渡と昭和四〇年四月四日から右明渡ずみまで一ケ月金五万円の割合による賃料相当額の損害金の支払を求める。
被告訴訟代理人は、原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。との判決を求め、請求原因に対する答弁として、次のとおり述べた。
一、請求原因第一項について、本件建物が公簿上更生会社の所有名義となつていることは認めるが、更生会社が本件建物を所有していることは否認する。本件建物は被告が訴外江端怜女から買受けたものであつて、その際売買代金の一部に充てるため更生会社から金員を借用し、後日これを返済したときに被告名義に所有権移転登記をする約で、更生会社名義に所有権移転登記をしたのである。従つて、実体上は、被告が本件建物を所有しているのである。
二、請求原因第二項について。訴外日善実業株式会社が更生会社の姉妹会社又は系列会社であつて被告が右訴外会社の代表取締役の地位にあつた事実及び被告が現に本件建物を占有使用している事実は認めるが、その余の事実は否認する。
三、請求原因第三項について。被告が取締役の任期満了の際株主総会において再任されなかつた事実は認めるが、その余の事実は否認する。
四、請求原因第四項について。被告が原告ら主張の趣旨の内容証明郵便を受領した事実は認める。
五、請求原因第六項について。全部争う。
証拠(省略)
理由
別紙目録記載の建物(以下本件建物という)が公簿上更生会社三善工業株式会社(以下更生会社という)の所有名義となつていることは被告の認めるところであるが、右事実と成立に争いのない甲第一号証、証人河辺光雄の証言によりいずれも真正に成立したものと認められる甲第三号証、第四号証の一、二、第五号証の一、二、第六号証の一ないし五及び同証人の証言を総合すると、本件建物はその敷地である大阪府豊中市大字走井三二八番地の九宅地五三坪及び同所同番地の二八宅地二〇坪とともにもと訴外江端怜女の所有であつたが、昭和三八年夏更生会社がその姉妹会社(製品の販売会社)として訴外日善実業株式会社を設立するにあたり被告をその専務取締役として招聘するについて被告に社宅を提供することになり、それも右訴外会社は未だ設立前で資金的余裕もないために被告が見つけて来た土地建物を更生会社が買取りこれを被告に無償で貸渡すことになり、その結果被告が更生会社を代理してその頃前記訴外江端怜女から前記土地建物を代金四〇〇万円で買受ける契約を締結し即時右訴外人に対し手附金五〇万円(その出所は更生会社ではないが、被告か前記訴外会社かは定かでない)を支払い、更に更生会社(総務課長河辺光雄)が同年九月二日前記訴外人に対し残金三五〇万円を支払い、前記土地建物の所有権を取得し、同日付で売買契約書を作成しそれに基いて所有権移転登記を了したこと、そして更生会社はその頃被告に対し本件建物を前記訴外会社の社宅として無償で貸渡したことを認めることができる。被告本人は、本件建物及びその敷地は被告が自己の名で前記訴外江端怜女から買受けたものであると供述するけれども、被告本人の右供述は、前掲証拠に照して措信し難い。他に右認定に反する証拠はない。
そして、被告が現に本件建物を占有使用していること、被告が昭和四〇年二月二六日取締役の任期満了の際株主総会において再任されず前記訴外会社の取締役たる地位を喪失したこと及び更生会社が同年三月三一日付内容証明郵便をもつて被告に対し本件建物の使用貸借契約を解除する旨の意思表示をなし、右内容証明郵便が同年四月三日被告に到達したことは、いずれも、当事者間に争いがない。
また、更生会社が昭和四一年三月八日金沢地方裁判所において更生手続開始決定を受け原告両名がその管財人に選任されたことは、本件記録上明らかである。
そうるすと、被告が原告両名に対し本件建物の明渡義務を負うことは明らかである。
また、更生会社が昭和四〇年四月四日以降被告の本件建物の不法占有により賃料相当額の損害を蒙つていることは、以上認定の事実から推認し得るところであるが、賃料相当額がいくらであるかの立証は全くないから、原告らの被告に対する損害賠償請求権を肯認することはできない。
よつて、原告らの本訴請求は、被告に対し本件建物の明渡を求める限度でのみ正当として認容し、その余を失当として棄却し、訴訟費用の負担につき原告ら敗訴部分が附帯請求のみであるため民事訴訟法第九二条但書、第八九条を、仮執行宣言につき同法第一九六条第一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
別紙
目録
大阪府豊中市大字走井三二八番地の九地上
家屋番号同所三八〇番
一、木造瓦葺二階建居宅 一棟
床面積 一階 八九・五二平方メートル(二七坪〇合八勺)
二階 四四・〇六平方メートル(一三坪三合三勺)